映画『盆唄』中江裕司監督インタビュー【日本を故郷にする、すべての人へ】

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2019年2月15日から全国公開されるドキュメンタリー映画『盆唄』は、東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故による放射能被害より、全町避難を余儀なくされた福島県双葉町の人々を描いた作品。今も故郷に戻って住むことを許されず、散り散りになって避難生活を送る人々が故郷の「盆踊り」を絶やさないようにと奮闘する中、意外なルーツと出会います。
活動拠点を沖縄に置いていることで知られる中江裕司監督は、3年に渡り双葉町の人々を追い続けました。今回、どのような思いで被災地や人々と向き合い、カメラを回していたのでしょうか。
©2018テレコムスタッフ

避難先で、今も「双葉町民として」生きる人々

★――中江監督が、双葉町の盆踊りを映画にしたことに驚きや意外性を感じたものの、不思議と違和感はありませんでした。
というのも沖縄の「エイサー」は双葉町の盆踊りと同様に、町の集落ごとに受け継がれてきた「オリジナルの音楽を楽しむ文化」として地域に根づいている……。どこかに似た部分を感じたのです。

中江監督(以下、中江)「唄と芸能。双葉町独特の地域と唄の結びつきは、ビビッドに理解できました。沖縄も一緒だから。
伝統が、音楽が、『集落ごとに』きちんと残されてきた。そんな双葉町には『統一化されていない魅力』を感じます。だからそこに生きてきた人たちを撮ることは、僕にとって、とても刺激的で豊かな時間でした」

――被災地レポートとしての双葉町とか、消えゆく被災地の文化を追いかけるのではなく、「人」にフォーカスした作品になっていることにも中江監督らしさを感じました。

中江「『盆唄』は横山さん(※1)に惚れ込んで撮っていた、ただそれだけなんです(笑)。『統一化されていない魅力』と言ったけれども、それは人にも言えること。世の中が統一化されればされるほど、人はつまらなくなっていくでしょう? 横山さんのような人が生きていた双葉町の豊かさを、本人もひっくるめて撮りたかったんですよね

※1 横山勝久さん。本作に登場する双葉町民のひとり。震災前は同町で電気工事店を営むかたわら、手製の太鼓を作り、「双葉町の盆踊り」を誇りに思い大切にしてきた。

サブ7+――作品の前半には、そんな豊かさとはかけ離れた「避難民だから迷惑をかけてはいけない」という言葉を口にする町民が度々登場します。
しかし徐々に未来を見据え、特に横山さんは太鼓作りや作曲を始めたり、やぐらの共演(※2)実現に向けて奮起する。そんなエンジンがかかったきっかけをどこに感じていましたか?

中江「結構最初のころ。横山さんが帰還困難区域に入って、初めて太鼓を打つシーンですね。あのときの彼は、魂をすべて太鼓にぶつけているように見えました。……間近で見ていて、涙が出ましたね。打ちながら『まだ自分にもこういうことができるんだ』というエネルギーを得て、前向きになられたんじゃないかなって思います」

※2 双葉町の各集落で受け継がれてきた盆踊りが、一堂に会する夏の伝統行事。同町では集落ごとに唄い継がれている歌詞があり、「盆唄」と呼ばれている。

サブ3――「被災地から来た自分」「周囲に迷惑をかけてはならない生活」を意識するあまり、かつて日常にあった楽しみ(=盆踊り)さえも封印してしまった人々。彼らが被災後、新たな土地で初めて太鼓を打ち、笛を吹き、唄をうたえるまでになる過程がリアルに映し出されていました。

中江「作品に登場していただいた人たちから見れば、僕は“映画監督”。映画とともにやってくる人なんです。例えば人って、本当はやってみたいけどちょっと迷っているとき、その決断を誰かのせいにしちゃいませんか? 最終的なやぐらの共演も『“映画を撮っているから”やってみよう』と、前向きにさせた面があったのかなって思います。僕はそういう映画のチカラも信じたい」


やぐらの共演を実現させた翌年の夏祭りでは、監督が町民の方々に「映画のおかげで、やぐらの共演が叶った。よかった!」と声をかけてもらう場面があったそう。被災地に差し込む新たな光が、「映画のチカラ」によって生まれた瞬間です。

描かれる“故郷への想い”と“被災地の希望”

IMG_7463――撮影期間中、監督は何度くらい双葉町を訪れたのでしょう?

中江「7~8回くらい、横山さんたちの一時帰宅とともに足を運びました。僕が2016年に双葉町に入ったとき、町の中には自然の音しかしなかったことを鮮烈に覚えています。『人が出す音』がまったくしなくて……、これって一体何なんだろうと。でも今は除染工事のために大勢の人がいて、工事の大きな音もする。
個人的には、それにより『人は何をしてきたんだろう、人は何をしているんだろう』ってことを考えさせられる場所になっている気がします。ここは日本にとって、重要な場所かも知れないって。双葉町の人たちは、あんまりそう捉えて欲しくないかも知れないけれど……。だから個々の想いももちろん大事で、作品ではそれを丁寧に扱ったつもり

サブ1+――映画の中では盆踊りの継承はもとより、「双葉町を残す」ことや「双葉町へ帰ってくる」ことを願い、生活の一部にしている若い世代も登場しています。

中江「今この状況はとてもつらいと思うけれど、そういう『誇り』を持ってもいいと思うんです。沖縄の人たちも、地上戦で悲惨な目にあっている。それはとてもつらい事実や体験だけれど、だからこそ言えること、伝えられることがあるのもまた事実なんだよね」

サブ2+――「つらい状況」というのは、作品中で相馬移民(※3)の話に例えられ、アニメーションで綴られていました。

中江「あの部分は、双葉町のみなさんへの『恩返し』のつもりで作りました。今、避難先でつらい思いをされているだろうけれど、そこでどう生きていくのか、何をしていくのか……。ご先祖様の中にも、長い時間をかけてその土地に根づいた人がいるわけですから。そういう歴史から、何か考えてもらえればと思います。今いる場所でも、何か見つけられることはあるかも知れない

――監督ご自身も京都から沖縄に移り住まれていますが、そういう経験がありますか?

中江「もともと、『郷土愛』に対する憧れがあるんです。僕は京都出身ですが、両親は滋賀県の人。移住先である京都で、地元の人たちと上手くやれてなかった姿を見ていたから、なかなか京都に愛着を持てなかった(笑)。だからといって滋賀県には住んだことがない。沖縄には愛着を持っているけれど、大学生になってから住んでいる場所なので、この思いが郷土愛かと言われたら……」

サブ9+――そんな監督だからこそ描ける『今いる場所で見つけられること』というテーマは、被災地に限らず、日本人全体へのメッセージと捉えることができるかも知れません。

中江「映画って監督が作ったものがすべてではなく、観た人の中で完成するもの。これまでも僕の作品を観てくださった方に『あのセリフがよかった』とか言われることがあるんですが……、実際はそんなセリフないよ!?ってことがいっぱいあるんです(笑)。でも映画って、観た人のもの。だから僕はそれを否定もしません(笑)。今回も『盆唄』を観たひとりひとりの中に、『それぞれの盆唄』ができあがると思います。双葉町の人にはもちろん、そうではない人たちにも自由に観てもらうことで、『自分の映画』として残してもらえたらすごく嬉しいですね

※3 北陸地方に住んでいた、浄土真宗門徒たちの集団移民。双葉町がある相馬地区で200年以上前に起こった大凶作の影響で、領民は1/3にまで減ったとされるが、この危機を脱するのに彼らの功績があったと伝えられている。


日本の夏祭りや盆踊りは、娯楽のひとつとして人々を笑顔にしてくれるもののはず。本作はどんな地域も豊かであり、住む人たちを幸せに導いてくれる可能性を秘めているのだと教えてくれるようです。

中江裕司監督へのインタビューを終えて……

サブ10++『盆唄』の舞台となっている福島県双葉町は、筆者の故郷です。
高層ビルやショッピングモールはもちろん、近くに映画館さえない田舎町……。そんな故郷が舞台となり「全国公開される映画になる」という話は、なんだか悲しいものでした。ただの故郷であるはずなのに、記録しなければいけない・伝え残さなければいけない特別な土地になってしまったという現実と向き合わされてしまうから。
震災後の「福島」は「フクシマ」となり、世界中が知るネガティブな場所として取り上げられることばかり。中江監督はそんな町とそこに暮らしてきた人たちを、幾度となく「豊か」だと表現し、愛してくれています。被災地に生きる人々が感じている「孤独」や「負い目」という鎖を解いてくれる鍵は、そんな人の気持ちそのものかも知れない。そう思えてしまうのです。

映画『盆唄』イントロダクション

メイン+東日本大震災の影響による避難生活が続く、福島県双葉町の人々を追ったドキュメンタリー。彼らは、今から100年以上も前に福島からハワイへ移住した人々が踊り継いできた『フクシマオンド』の存在を知り、「『地元の盆踊り』を、後世に残せるかも知れない」という希望を抱いてマウイ島へ向かいます。

沖縄の文化や人に焦点を当てて作品を撮り続けてきた中江裕司監督ならではのあたたかく寛容的な視点で、双葉町の街並みや文化、人々が表現されているのも見どころです。

取材・文/加藤陽子

映画『盆唄』
www.bitters.co.jp/bon-uta

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監督:中江裕司(『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』)/出演:福島県双葉町の皆さん、マウイ太鼓ほか/声の出演(アニメ―ション):余貴美子、柄本明、村上淳ほか
●第19回 東京フィルメックス 特別招待作品
●2月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー。フォーラム福島、まちポレいわきも同時公開!

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