
2017年6月3日(土)に全国公開される、『ザ・ダンサー』は“モダンダンスの祖”と呼ばれる実在の女性ロイ・フラーの半生を描いた映画。
フランスのファッションアイコン的存在、ソーコ(Soko)さんが主人公のロイ役を演じているほか、あのリリー=ローズ・デップが初めて本格的な主要登場人物として映画に出演していることも話題になっています。今回はステファニー・ディ・ジュースト監督とソーコさんにインタビューしてきました!
© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR – WILD BUNCH – ORANGE STUDIO – LES FILMS DU FLEUVE – SIRENA FILM
「こんなに強い運命の横を、素通りすることなんかできない」―ステファニー監督
――はじめに、この作品が誕生したきっかけを教えてください。
ステファニー・ディ・ジュースト監督(以下、監督)「ロイ・フラーがダンスをしている写真に、偶然出会いました。それをきっかけにロイ自身に興味がわき、生涯を知ってとても感動したんです。開拓者のような精神を持ち合わせ、きわめて挑戦的で躍動的な人生を送った……。
これほどまでに強い女性の運命をつきつけられ、私は作品にせずにはいられなかったんです」
――監督はもともと、フォトグラファーとして活動なさっていますよね。彼女のダンスの美しさを写真ではなく映画で残そうと思った理由はなんでしょう?
監督「ロイを描くために“映画”を選んだことに、それほど深い意味はありません。私にとって映画は『人間の物語が語られていること』『強い力を持った物語が描かれていること』が何よりも大切です。ですから、表現方法に映画を選んだことはごく自然なことでした」
――撮ることに、プレッシャーはありませんでしたか?
監督「もちろん! 私に撮れるのかしら?という怖さはいつもありました。物語の複雑さを思うと、作品づくりをとどまることさえ。でもこのロイ・フラーという女性の強い生き方を深く知るにつれ、少しずつその一線を乗り越える勇気が得られたんです。
そういった意味でも、映画という媒体は彼女を描くのにもっとも適した媒体だったと思います」
――しかし、ロイ・フラーに関する資料は写真や伝記など、紙ものばかりだったと伺いました。
監督「実はロイは、フランスで10もの特許を取っているんです。そのおかげで彼女自身が描いたデッサンや図式は膨大に残されていました。伝記や自伝もあります」
ソーコさん(以下、ソーコ)「ロイは“コピーライト”という概念を、初めて真剣にとらえたアーティストでもあるんですよ!」
――そういった多くの資料をもとに、彼女のダンスが映像化されたのですね。ソーコさんは、このオファーを受けてまずどう思いましたか?
ソーコ「シナリオを受け取ったとき、世界でいちばん素晴らしいプレゼントを受け取ったと思いました。でも、演じるために初めてジョディ(※)のパフォーマンスを見たとき、涙が止まらなくなってしまって……。
これは私にふさわしくないと感じました。ロイ・フラーは、近づくことができない大きな存在に見えてしまったから」
※現在、もっとも上手くロイ・フラーのダンスを踊れると言われているダンサー。ジョディ・スパーリングのこと。
――でも引き受けた。その背景にはどんな心境の変化があったのでしょう?
ソーコ「実は……、監督が『ダンスシーンはスタンドイン(代役)するから大丈夫』と言ったんです! 今思うと、それは戦略だったんだろうけど(笑)。でもそう言われたことで逆に、『代役を立てるなんてありえない!』と思いました。ロイという人間を理解し、その苦しみや人生までをも表現するためには絶対にダンスは自分自身で踊る必要があると感じたんです」
――かなりハードなレッスンをこなされたとか!
ソーコ「コーチと一緒に1日2時間ダンスの練習と、5時間のトレーニング。それを撮影前の2か月間行いました。筋肉痛で歩けなくなるのは当たり前。何度も『できない』と思ったけれど、最終的にはやり抜くことができた……。“到達する”ことへの執着やパワーは、ロイの生きざまを知るにつれ強くなり、それこそが彼女に教えられたことのひとつだと思っています」
――監督からソーコさんに向けて、ロイ役を演じる上でのリクエストはありましたか?
監督「ソーコと出会って、もう10年以上。女優としてだけでなく歌手やパフォーマーとしても、彼女の才能を見続けていましたから、一瞬たりともその資質を疑ったことはありません。むしろそういった面が、役柄をより膨らませてくれると信じていました。
ただひとつだけ、彼女の2か月のレッスン後にダンスを見たあとに『完成したダンスをよりソーコ自身のものにしてほしい』と伝えました。『習った動きのさらに向こうに進化してほしい』と。ソーコの持っている情熱やエネルギー、パンクな要素を作品中のダンスでも見せてもらいたいと思ったんです」
「リリー=ローズ・D、初めてのキスシーン。その相手は私(笑)!」―ソーコ
――ソーコさんの感情豊かな演技や迫真のダンスはもちろんのこと、リリー=ローズ・デップとの共演も公開前から大きな話題になっています。
ソーコ「実は、リリーと私は以前から友人同士なんです。同じ作品に関われたことにとても満足しています。
彼女こそ、イサドラを演じるのにぴったりの人物! 当時、ダンスの世界で新世代としてあらわれたイサドラ。一方、リリー自身も新しい世代の女優としてそのキャリアをスタートさせたという共通点がありますよね。リリーが17歳という若さですでにスターという部分も、イサドラという人物の美しさや強さ、カリスマ性を表現するのにふさわしいと思いました。
それからもうひとつ、リリーの出演作品の中で初めてキスシーンを演じた相手は私! それもしっかり伝えておきたいことのひとつですね(笑)」
――たしかにそれは世界が注目する、とっておきの見どころですね(笑)! ではソーコさんが本作の中でもっとも大切にしたことや、伝えたいと思っていることを教えてください。
ソーコ「この作品で描かれるのは、ひとりの女性アーティストの肖像。クリエーションのために自分自身の身体や視力を犠牲にしてまで、創作活動をし続ける……そういう姿を描いています。“創造する”ことの意味、それをみんなに伝えたいと思いながら撮影ました」
――監督からも、日本の映画ファンへ向けてメッセージをお願いします。
監督「ロイはもともと、ダンサーとして成功するためのもの ――たとえば、肉体や環境、美しさなどを与えられていたわけではないんです。情熱や熱意、完璧主義であろうとする気持ちだけで身体を作り変え、舞台に立っていた。
そういう点が多くの人を勇気づけたり、強い共感を生んでくれると思っています。また彼女は生きていく中で自分の性や精神の弱さを受け入れ、自分自身を認め直します。よくあるハッピーエンドとは一線を画した、本作ならではの魅力を感じてもらいたいですね」
旧知の仲であるステファニー監督とソーコさん。インタビューの間もふたりの笑顔は絶えることなく、終始なごやかな雰囲気でインタビューは進んでいきました。
ソーコさんは1週間以上も日本に滞在し、満開の桜を楽しんだり古都を訪れたり、宮古島まで足を延ばして観光もしっかり満喫できた様子。公式Instagramでその様子がたくさんポストされています。キュートなプライベートな彼女もぜひチェックして❤
Photo:Masato Seto Hair&Make up: Naoki Hirayama (Wani)
『ザ・ダンサー』
6月3日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
監督:ステファニー・ディ・ジュースト 出演:ソーコ、リリー=ローズ・デップ、ギャスパー・ウリエル、メラニー・ティエリーほか 配給:コムストック・グループ
© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR – WILD BUNCH – ORANGE STUDIO – LES FILMS DU FLEUVE – SIRENA FILM